作品コラム
§今週の1点 vol.7 中川一政「鉄線花」1981年
§今週の1点 vol.7
中川一政「鉄線花」
中川一政《鉄線花》1981年 NAKAGAWA Kazumasa 《Clematises》
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全国の中川一政ファンのみなさま、こんにちは。いかがお過ごしですか。
◆中川一政「鉄線花」1981(昭和56)年
ほんのりと赤みを帯びた白い鉄線花が、愛用の小さな壺に生けられています。画面左にすっと伸びた花と壺に描かれた人物の語らいが聞こえてきそうですが、全体にゆったりと取られた余白の中に静かな佇まいが感じられます。
”鉄線花を子供の時に見た覚えはない。少なくとも私の世界にはなかった。ずっと大人になって妙高高原の小杉放菴の邸の裏庭に、信越の山を見おろして凛呼として咲いていた。濃い群青の花であった。
初めて鉄線を見たときのことや、自ら生けて描いてみたときの思い出がつづられたエッセイからは、一政がこの花の凛とした清らかさに心動かされたことが伺えます。茶色の背景に、灰色に着色されたマットという押さえられた色調のなかに、白い花が浮かび上がるように描かれた本作も、花が持つ浄げなる魅力を見事に描き出しています。
《薔薇》や《向日葵》など油彩作品と趣を異にする本作は、岩絵具(いわえのぐ)で描かれており、中川一政はこれらを「岩彩(がんさい)」と呼んでいます。岩絵具は、主に鉱石を砕いてつくられる粒子状の絵具で、それ自体では画面に定着しないのため、膠(にかわ)液と混ぜて使います。
”私の机の横には、いつも炭火にお湯がたぎってゐる。夏下冬上の理法によって、炭火をたやさない。これは茶をいれる用意のためばかりではなく、膠を煮て、絵具を溶く必要でもある。” (「茶と酒」『うちには猛犬がゐる』前掲)
本作以外にも、鉄線を主題にした作品は7点ほど確認できますが、いずれも岩絵具で描かれています。どの作品も、1ないし2輪のみが楚々と生けられ、ときにビワやリンゴなどとの取り合わせが試みられています。
2021.6.5掲載
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